Work Text:
あの日、雨が降っていた。
春が終わり、梅雨の季節だけあって、あの日は朝っぱらからざあざあと窓越しに雨の音が聞こえてきた。幸い俺は数週間振りの非番だから、昼まで寝台で寝転がっていたり二度寝したりした。昼間になるとやはり腹が減っていて、ようやく布団を振り払って寝室を出た。昼飯は何をするかを考えながら冷蔵庫を開いたが、数週間も家に帰っていないのでさすがにそこには有効期限を超えた食品ばかりだ。
これだけ食品を無駄にするとはなと舌打ちをし、適当に食えないものをゴミ袋に入ると、少し隠れいているところにホイップクリームや苺などが目に入った。
一瞬きょとんとした俺だったが、すぐにそのケーキの材料を用意したことを思い出した。いや、思い出させられてしまった。
期待してしまった自分を。
”彼”に裏切られたことを。
不愉快な気分になり、少し乱暴にそれらを取ってゴミ袋に投げ捨てた。もう見たくない。思い出したくない。あの男のことなんか存在することさえ忘れてしまいたい。
ゴミ袋の開け口を結んで玄関の近くに置いておく。次の可燃ゴミの日はいつだっけ。それより、今日何日何曜日だっけ。思いつかない。
嗚呼、糞。何今更あの糞青鯖のことしか考えられなくなったんだよ。
女子高生かよ。格好悪ぃ。
忘れろよ、俺!
如何せ最初から俺は彼に何の意味もないひとだったろう。酷く言えば、ただの暇潰しだった。
あの人、俺の相棒・太宰治が組織を抜けたから約二か月。 最悪なことに、俺はまだ、彼への慕情を抱いている。 一生叶わない想いだと知っていても、な。
あの日、雨が降っていた。
俺はまた寝台に戻り、そっと目を閉ざしながら過去の自分を消せばいいと祈っているのである。