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Yuri2gether

Chapter 7: 第七話 ONE HUG + エピローグ

Summary:

サラワットの投稿を見てバンド練習をしているスタジオまで駆け付けるタイン。サラワットが隠していた事実が明らかになり、2人は…
そして半年後、プライドマンスのイベントステージに立つCtrl+Sとタイン達。

Notes:

タインの一人称で書いてしまったので、プコミルとマンタイプの話が全然入れられず最後急に出てくる感じなっちゃったんですが、そこのGL版も番外編として書きたいと思っております…!

Chapter Text

「そりゃ、偽だとしても、あんたとの恋人関係を終わりにしたくなかったんじゃない?」
フォンがデスクチェアでくるりと振り返りながら言うけれど、あたしはフォンのベッドの上でジタバタ暴れた。
「だったらなんで、ペアとくっつけばいいみたいに言うんだよー!」
フォンは椅子のままキャスターで近くに来て、バタバタしてるあたしの足首を両手で押さえる。
「くっつけばいいとは言ってないでしょ」
グリーンたちから聞いた話が一人では整理しきれなくて、次の日の晩、あたしはフォンの部屋に押しかけて話を聞いてもらっていた。
サラワットはなんでP'ディムとグリーンがヨリを戻したことを、3ヶ月も黙ってたのか…フォンはああ言うけど、本当に信じちゃっていいのかな?
「だってタイン、ペアのこと好みのタイプだってサラワットに言ったんでしょ?」
「言ったけど、好みのタイプと好きは違うじゃん!」
「でも今もペアと仲良くしてるし」
「そりゃ友達だからで…」
あれ?でもサラワットからしたら、ずっとあたしがペアを口説こうとしてるみたいに見えるか…?
「まあ、サラワットがタインのこと何とも思ってなかったら、そんな勘違いはしないかもね。でも、好きな子が他の人をタイプだって言って、ずっと仲良くしてたらそう思い込んでも無理ないかも」
「ちょっと…なんでそんなに自信満々なの?もし違ったら責任とってよー」
ぐずぐず言うあたしをフォンが鼻で笑う。
「だって『嫉妬してる』とまで言われてるんだから、明らかじゃない。何をそんなに臆病になってるんだか」
明らか…本当に?そんなに断言できる?
「あれ?噂をすればサラワットの新しい投稿」
携帯を見て言うフォンに、あたしは「え!?」と起き上がって、思わずフォンの手の携帯を覗き込む。
「え、この風景って…」

スタジオの明かりがついてるのが外から見えて、まだサラワットたちは練習してるんだな、とあたしは思う。
あの投稿を見て思わず駆けつけてしまったけれど、出てきてくれるまで外で待つしかないのか…。
せめて差し入れを持ってきたフリくらいしようかな、と自販機に飲み物を買いに行く。サラワットの好きなエナジードリンクを2本買ったところで、
「あれ、君…」
と背後からの声に振り返った。
知らない先輩だ。美人だけどちょっと不遜な感じで、あたしを見る視線に挑発的なものを感じる。
「一年のタインでしょ」
「え?あたしのこと知ってるんですか?」
「チアリーダーやってるでしょ?可愛い子がいるなと思ってたんだ。私、建築学部二年のミル(by Pahn)」
「はあ、どうも…」
なんだろう、普通なら褒められて嬉しいはずなのに、なんだかこの人のこの感じ、ちょっと怖い…
「あはは、どうも、だって。本当に可愛いね、タイン」
そう言って頭を撫でられて、あたしは固まってしまう。これってナンパ?あたし、ピンチ?
「勝手に触るの、良くないですよ」
サラワットが、いつの間にかそばに来て、先輩の手を掴んでいた。
「…は?これくらい、女同士じゃん」
「女同士でもセクハラはセクハラなんで」
サラワットはミル先輩に睨みをきかせると、
「タイン行くぞ」
とあたしの手を取って歩き出す。
「ちょっと待って、サラワット…」
サラワットはあたしの静止を聞かずにずんずん進んでいく。
「ちょっと!どこ行くのサラワット!」
サラワットはやっと立ち止まり、くるりと振り返った。
「…こんな時間に、一人でうろつくな」
…はあ〜!?口を開いたと思ったら、何だよそれ…!
「サラワットがあんな投稿するからじゃん!」
サラワットは驚いたように目をパチクリしている。この期に及んで、まだとぼけるつもり?
「あれが気になって、来たのか…?」
「そうだよ!そっちが呼び寄せるようなことしたんじゃん!」
「そっか…ごめん…」
あっさり謝るサラワットに、あたしはむしろイライラしてしまう。ごめんじゃなくて、説明してほしいんだって。
「あの…座って話さないか」
サラワットがグランド脇のベンチを指差した。

あたしが渡したドリンクの缶を手の中で回して、「えっと…」と言葉に詰まるサラワットに、あたしは携帯の画面を差し出す。
「これって、去年この大学のオープンキャンパスでScrubbがライブした時のだよね」
サラワットはこくりと頷く。
「奥に写ってるの、かなりボヤけてるけど、あたしとフォン?」
再び、観念したように頷くサラワット。
「あたしのこと、前から知ってたの?」
「…足を踏まれたから」
「え?」
「Scrubbのライブで興奮して飛び跳ねてただろ。その時、後ろにいた私の足を踏んだ」
「…えー…」
ううーん、何かやらかしたような記憶がおぼろげにある気がするけど…ちょっとよく思い出せない…
「え、これってその時の恨みの投稿とか?」
あたしが言うと、サラワットは「フッ」と吹き出して首を横に振った。今日は深刻そうな顔ばっかりしてたから、久々にサラワットの笑顔を見た気がする。
「…あの頃の私は、評論家みたいに音楽の良し悪しを聴き分けられるのが“音楽好き”ってことだと思ってたんだ。だけど、人の足を踏んづけるほどライブに熱中してるやつがいて、そいつの方がずっと音楽好きに見えた」
話しながらサラワットは、思い出すように柔らかく微笑む。
「本人と写真撮影できるのに、長引いて疲れてるだろうからってポスターと写真撮ってる姿がすごく眩しく見えて…ごめん、自撮りのフリしてこっそり撮った」
「…はあ…!?なんで今までずっと黙ってたの?」
サラワットは、少し間を置いて、あたしを見つめる。
「…最初は、心に残ったいい思い出ってだけだと思ってた…だけど、Scrubbがライブやるって聞くたびに、会場に行けばもしかしてまた会えるんじゃないかと思うようになって…」
覚悟を決めるように、サラワットが手の中の缶をごくりと煽る。
「気づいたらずっとあんたを探して、Scrubbのライブほとんど全部通ってた。大学で再会できた時は奇跡だと思ったけど、その時にはもう自分の気持ちが重くなりすぎてて、いきなり伝えても意味不明だろうし、どうしたらいいかわからなくて…」
あたしはびっくりしすぎて、唖然としてサラワットを見つめる。こんなことってある?
「それだったら…なんで最初、偽彼女の話断ったのさ…」
「…好きな人に偽の恋人になってくれって言われて、喜べるか?フツー」
あたしは再びぽかんとする。ちょっと待って…今なんかサラッと言ったな?
「…やり直し」
あたしの言葉にサラワットが「えっ」と目を見開く。
「あんたねえ…P'ディムとグリーンのことも黙ってたし、2つもあたしに隠し事してたんだから、あたしの言うこと2つは聞かなきゃなんだからね!」
「えっ、それ知ってたのか?」
「昨日知った!」
むくれるあたしに、サラワットが「ご、ごめん…」と慌てている。
「まず1個目!ちゃんと告白して。あたしのことどう思ってるのか、ちゃんと目を見て、サラワットの言葉で言ってよ」
じっと見つめるあたしに、サラワットは戸惑いつつも、コクコクと頷く。
「…好きです。」
超ストレートな、何の飾り気もない、普通すぎる告白文句。だけど、それがサラワットらしくていいや。
「それで?あたしとどうしたいの?」
「えっ、えっと…できれば本物の恋人に…なりたい、です…」
「いいよ」
即答するあたしに、サラワットが目を丸くしている。
「い、いいの…?」
「言うこと聞くの2つ目!」
サラワットの問いを遮るように、あたしは言い放つと、両腕を広げた。
「MVの時のハグ、短すぎてもっとしたかった。今して」
「…ハグ…」
目を白黒させてるサラワットに「は〜や〜く〜」と強請ると、サラワットは慌てて「はいっ」とあたしの体に両腕を回す。
「あの時よりもっと、長くしてね。もうほんとの恋人なんだからね」
最初は緊張していたサラワットの腕がだんだん柔らかく、優しく包むようにあたしを抱きしめた。

--------

「次の曲は、ゲストと一緒に歌います!タイン、ペア!」
テンプのMCを合図に、舞台裏にいたあたしとペアはステージに上がった。

サラワットたちCtrl+Sは、バンドコンテストで優勝は逃したものの決勝まで進み、特にMVは話題になって、YouTubeの再生回数は優勝したバンドより上回ってたらしい。
BLやGLの要素のあるMVは最近のT-POPでは珍しくないけど、BLもGLも両方メインのストーリーとして扱ってることとか、ミュージシャン自らがBL/GLを演じてることとか、相手役も同じ大学の音楽部の部員だとか、いくつかの要素が重なって注目を集めたようだ。
あとまあ、あたしとサラワット、ペアとアーンのケミが良かったってのもあるかな。巷では、MVだけどドラマを見てるみたいに萌えられるって評判らしい。

そして…半年後、あたしたちが今立ってるこのステージは、プライドマンスの始まりを祝うイベント会場である。
あのMVがきっかけで、バンコクプライドの実行委員会から声がかかり、Ctrl+Sがステージで演奏することになったのだ。
たくさんのバンドが登場するうちの一組ではあるけど、インディーズデビューもしてない学生バンドとしてはなかなかの大抜擢である。
そして、MVの曲を演奏する時は、ゲストとしてあたしとペアもステージに上がって一緒に歌うことになった。

野外ステージから見下ろすと、レインボーカラーにペイントされた道に人々が集まって、ステージを見る表情はみんな晴れやかだ。
ギターを持つサラワットの隣に立つと、サラワットは待ち構えていたように微笑む。
「なんか…5年くらい前には想像してなかったよね、こんなの。プライドパレードもなかったし、同性婚ももっと時間がかかるかと思ってた…」
だけどあたしは知ってる。この光景は自然に生み出されたものじゃなくて、たくさんの闘ってきた人たちの歩みが積み重なったものなんだと。
「私たちも、そのうちの一歩だろ」
サラワットが言う。
演奏が始まって、サビのフレーズを一緒に歌いながら、会場を見渡すと、知ってる顔がちらほら見える。
サラワットの妹のプーコンがいたと思ったら、隣にあのミル先輩がいて、大丈夫かと心配になるけど、2人は仲良さそうに微笑み合ってる。あの2人って面識あったの?
あたしの姉のP'タイプ(by Film)もあたしがステージに立つと聞いて駆けつけてくれた。前に会った時一目惚れしたらしいマンが、隣で必死にアピールしてる。
ボスとオームとフォンとプアクは、何やら4人でキャッキャとはしゃいでる。サラワットの友人たちとあたしの友達も、ずいぶん仲良くなった。
P'ディムとグリーンもいる。2人は最近YouTubeチャンネルを開設して関係を公表した。以前はP'ディムがクローゼットだったから交際を隠してたんだけど、ご両親にグリーンを紹介したのを機に、公にもカミングアウトすることにしたらしい。
少し後方には、P'エアやP'ファンの姿も見つけた。

この世には対になってるものが多いって人は言うけど、1人で来てる人も、2人でも、3人でも、恋人と来てる人も、友達といる人も、みんな同じくらい輝いた顔をしてる。
ステージ脇に掲げられたフラッグが風に大きくはためいて、視界がレインボーに染まり、客席が見えなくなった、その瞬間。
サラワットと目を合わせた、コンマ1秒。
磁石が引き合うみたいに、あたしたちは互いの顔を引き寄せて、キスをした。

…次の瞬間にはフラッグが翻って大騒ぎされちゃったけど、まあ今日くらいは、いいよね…!